脱走

脱走したい。

ふとそんなことを思いつつ生きている。脱走したい。連絡先も家も今まで集めた本も、全部捨てて脱走したくなる。そういう時は決まって近所のスーパーにちょっと買い物に行った時とかで、脱走するぞ、と思って脱走したくなるのではない。



もともと幼い頃からこれといった夢はなかった。動物と本が好きなので、動物園の飼育員や図書館司書になりたいと言ったら笑って一蹴された。両親は自営業で、安定しない安月給の仕事よりもお金で苦労しないよう、高給取りの安定した仕事に就いて欲しかったのだろう。でも、ここに来て何が何だか分からなくなってきてしまった。


ふらふらしながら一人で呑気に生きている私よりも、美人で喋りが上手で家がお金持ちなあの子の方が世間が追い求める幸せを簡単に手に入れてしまうのだろうと思うと、全てが馬鹿馬鹿しくて、嫌になってしまう。明らかに大きなハンデを持ったまま同じゴールを目指すなんて阿呆らしい。それくらいなら私は立ち止まって足元の砂に絵を描いて日向ぼっこをして死んでいきたい。あの子はとうにゴールして、涼しい部屋で休んでいるが真ん中の人たちはまだ走っている。


そんなことを考えながら生きている。はやく死んだように生きたほうが良いのだろうな、と思うがいまいち決心がつかない。